ウエディングミュージック全般
結婚式の音楽を考える(2)選曲の基準は何?

結婚式の音楽を考える(2)選曲の基準は何?

今回も前回に引き続き結婚式の音楽のあり方・価値について考えてみたいと思います。

ドレスや会場装飾など他のウエディングのアイテムが最新のトレンドをうまく取り入れながら、クリエイティブなアイデアが出される一方で、結婚式のBGMはどうしても結婚式場が用意した定番曲のBGMリストから選曲されたり、新郎新婦のおふたりの趣味嗜好に偏った選曲になりがちであることを前回紹介しました。

前回の記事「結婚式の音楽を考える(1)BGM選曲の課題

もちろんそのこと自体が悪いことではないですが、これだけ世の中にはたくさんの音楽が存在して、日々新しい曲がリリースされているわりには、結婚式のBGMは依然定番曲からの選曲がベースになっていることが、他のウエディングのアイテムに比べて、会場の雰囲気を作り出す上で欠かすことができない重要な要素である音楽だけが取り残されている感を感じてしまいます。

そんな現状と課題を前回の記事では紹介しましたが、そもそも新郎新婦のおふたりはどのような基準でBGMを選曲しているのでしょうか。

私はBGMの打ち合わせの際に、新郎新婦のおふたりにほぼ必ず聞く質問があります。それは披露宴のBGMをどのような基準でおふたりが選曲されたのか、ということです。それぞれのシーンによって異なるとは思いますが、全体を通して選曲する上でどんなことに重点をおいたのかを知ることは、その後の提案をする上でも参考になるからです。

1番よくある応えとしては、「ふたりの好きな曲・知っている曲」が挙げられます。次に多いのは、「ゲストの皆さんが知っているだろう曲」あるいは「ゲストの特定の誰かに向けた選曲」、そして「会場の雰囲気に合うだろう曲」などがあります。

「ふたりの好きな曲・知っている曲」に関しては、新郎新婦おふたりの音楽に対する温度感によっても変わってきますが、比較的日頃から音楽を聴くような方で、好きなアーティストなどがいる場合は、自分が好きなアーティストの曲などをベースに選曲されます。大好きな音楽を聴きながら結婚式を過ごしたいと考えている新郎新婦も一定数はいるように感じます。

一方で、音楽をそこまで聴かないような方であれば、知っている曲、聴いたことがある曲からの選曲がベースになり、定番曲リストからの選曲が多くなる傾向にあります。

「ゲストの皆さんが知っているだろう曲」が選曲の基準になっている場合も、定番曲から選曲される傾向がありますが、知らない曲よりも知っている曲の方が、ゲストが盛り上がるのではないかとか会話のネタになるのではないかというのが主な理由だと思います。確かに知っている曲が流れることによって、そこからゲスト同士の会話が生まれることもありますし、知らない曲に比べると共感や共有がしやすいなどの効果は期待できるかもしれません。

photo of woman leaning on compact disc cases

対して「会場の雰囲気に合うだろう曲」をベースに選曲するという方法もあります。これは仮に新郎新婦のふたりが知らない曲であっても、選曲を考える上で出会った曲や気に入った曲など、知らなかったけど会場の雰囲気に合いそうだから選曲するということもあります。これは披露宴の迎賓や歓談などのシーンでこの傾向があるように思います。

「知っている曲で会場の雰囲気に合う曲」そんな曲があれば1番ベストのように思われますが、おふたりやゲストが知らない曲だと盛り上がらないのではないかとか、感動が生まれないのではないかというと、決してそういうわけではありません。

前にも書いた通り、知っている曲であれば共感や共有はしやすいのかもしれませんが、たとえ知らない曲であっても会場を盛り上げることも、感動を生み出すこともできるわけです。むしろそういう曲の方が結婚式の空気感を作り出す音楽演出としてより効果を発揮する場合もあります。

わかりやすい例で言うと、ドラマや映画などのBGMです。サウンドトラック(劇伴音楽)と言われる音楽ではありますが、主題歌は別としてシーンのバックで流れる音楽というのは、ドラマや映画を観る人にとっては、たいていは初めて聴く音楽になるわけですが、その音楽がシーンにおける役者の演技や情景などに寄り添い、シーンを盛り上げたり、スリリングな展開にしたり、楽しい雰囲気になったり、感動を生み出したりする効果があります。

逆に音楽がシーンにマッチしていないと、とても安っぽい音楽に聴こえてしまったり、そのシーン自体がチープに感じられてしまうことがあります。

人の脳の働きにおいて、「共鳴現象」という視覚からの情報と聴覚からの情報の性質が一致する際に起きる現象があるのですが、視覚から感じる印象に近い音楽を聴くことによって、よりその印象が強くなります。

つまり、好きな曲であるか、知っている曲であるか以上に、そのシーンに合った選曲がされているかどうかの方が重要になってきます。

例えば、新郎新婦退場曲の選曲において、その曲が好きだからという理由だけで、嵐の「Love So Swee」を選曲したとします。結婚式でも人気の曲で、アップテンポで爽やかな素敵な曲なので、明るく爽やかに退場したい場合にピッタリな選曲です。

ですが、新郎新婦おふたりの退場シーンのイメージが、それまでの余韻を感じながら、感動的にゆったりとした退場シーンを元々イメージしていたとします。その場合、例えばMISIAの「アイノカタチ」のようなゆったりとした感動的なメッセージソングの方が、よりおふたりの退場シーンのイメージに合った選曲になる場合があります。

あくまで一例ですが、BGMの打ち合わせの時にそんな話をすると、新郎新婦のお二人も『確かにそうですね!ちょっとイメージと違う!』という反応をしてくれることが意外とあるわけです。

ただ好きな曲を披露宴のシーンにあてはめただけの選曲になると、イメージしていた作り上げたい披露宴のシーンと異なるということが起きる可能性があるので、そんな軌道修正をしてあげるのも、サウンドコーディネーターの役割だと思っています。

結婚式のBGMにこれが正解というのがあるわけではなく、100組の新郎新婦がいれば100通りの答えがあると思っています。新郎新婦の大好きな音楽に囲まれて過ごす披露宴を幸せと感じ、好きな曲を中心に選曲することが正解なこともあれば、ゲストへのおもてなしを重視した選曲をすることが正解なこともあるので、価値観は本当に様々です。

そんな中で新郎新婦のおふたりが何を大事にしているのか、うまく汲み取りながら打ち合わせをすることが大事なことだといつも感じています。

次回は結婚式のテーマや披露宴会場の雰囲気、新郎新婦の結婚式へのこだわりポイントなどから、どのように選曲するのがよいか、サウンドコーディネートの例を紹介したいと思います。

投稿者プロフィール

澤近竜佑
澤近竜佑
Ryosuke Sawachika
ウエディングサウンドコーディネーター / ブライダル専門学校講師 / 作曲家
明治学院大学文学部芸術学科卒業(音楽学専攻)
音楽活動や作曲活動を経て、2015年より東京、横浜エリアを中心にホテル・ウエディングの音響担当として勤務。
2020年9月、一般社団法人ウエディングミュージックコンサルタンツ協会(wmca)主催
「ウエディングミュージックアドバイザー」の認定資格を取得。
披露宴のサウンド・コーディネーターとして活動中。
2023年より、3-yui名義で結婚式のためのオリジナル著作権フリー楽曲販売サイト「3-yui sound」を運営。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です